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「海軍めしたき総決算」です。

 みなさん、こんにちは。水の心です。

今日は昭和59年発行の新潮文庫「高橋孟」著

「海軍めしたき総決算」です。

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  著者の高橋氏は、昭和16年に海軍主計兵となり、佐世保海兵団で教育され

「めしたき兵」となる。

 

 軍艦霧島に配乗、ハワイ奇襲作戦に参加し、その後ミッドウェイ海戦にも参加。その2つの作戦共、下甲板烹炊所で「めしたき」に従事。

ミッドウェイ海戦では偶然にも燃える赤城を目撃。

 

 その後、改造砲艦「武昌丸」に乗船。

支那海で米夜襲。魚雷により沈没、その際、フカにより足を負傷。

 

 昭和19年サイゴンの海軍病舎で療養を始めるところから「総決算」はスタートし、内地に帰る復員船での仕事までが書かれています。

 

 海軍入隊から3年、善行章が付き、帰国後の佐世保海軍警備隊で主計兵長として勤務。「めしたき」から「経理会計」に仕事を変わり、その年の5月には海軍二等主計兵曹に昇進。

 通称ジョンベラ(海軍セーラー服。英国人を表わすジョンブル由来)から、詰襟の下士官服になる。

 

 串良航空隊に転属し、終戦間際、海軍一等主計兵曹に昇進。

8月10日過ぎに、鹿屋基地に転属命令。

8月15日鹿野基地にて終戦

 

 一時期帰郷の命令が出たため、高橋氏は、仲間と共に、塩、米、砂糖、缶詰、重油缶などを持ちだし、馬にひかせ、帰郷開始。

帰郷後、残務処理の為、呼集され処理を行う。

  その後、復員船に乗る流れとなり、これに乗船勤務。

そして、海軍での生活は終了した、となっています。

 

 「めしたき総決算」は、高橋氏の海軍人生の後半から終戦までなのですが、

昭和54年発行の前著「海軍めしたき物語」が、入隊から武昌丸での負傷までが書かれていたと思います。

 

 私が、読んだのは中学の時分だったと思うのですが「めしたき物語」の方が冒険にあふれ面白かったかな、と思います。その本もありましたが、いつの間にやら無くなっていました。

 

 高橋氏は、よく考えると「ハワイ奇襲」からの古兵で、開戦から終戦までを体験し、その「生き運」には驚くものがあります。

 「生き運」(いきうん)とは、その人の生き残る運です。

生き運の無い人は、あっさりいなくなるし、ある人は、とことん生き抜く事が出来ます。人それぞれの確率だ、とは言え、人の運命は不思議なもんだ、と思います。

 

 また戦艦、空母、駆逐艦、軍艦の形はわかるのですが、その中で働いている人達の顔はよくわかりません。

 

 大小艦船の中には、大砲、機銃、機関砲、爆雷、魚雷を撃ったり管制する戦闘要員だけではなく、怪我人を治療する医療もいれば、服や靴を支給する補給、壊れた箇所を修理補修する、多くの種類の、多くの兵士がいる。

 

 その顔が見えてきたのが、この

「海軍めしたき」シリーズでした。

 

 今読むと、こりゃ軍隊で私は務まらないな、と思います。

集団生活、全体行動、上下関係、うーん、やっぱり無理です。

 

 そう思ってしまう特徴的なものが「ギンバイ」「ビンタ」です。

 「ギンバイ」とは、自分の為や軍隊内の取引の為に、食糧の隠匿をしたり、こっそり盗む事なのですが、食料に一番近い「めしたき兵」はこの恩恵にあずかった様で、この本でも最後の章まで「ギンバイ」が出てきます。

 

「何事も、要領よく上手くやれ!」という事です。

 

 そして「ビンタ」

多くの日本の戦記物によく出てきます。

まぁ上から下まで色んな所で、山の様にビンタが出てきます。

 高橋氏も九州航空隊の鹿野基地に転勤になった途端、先任下士官にビンタを受けます。

しかも終戦の報が流れてからの、理不尽なビンタが頭にきて、仕事放棄に一時帰郷をします。

 

 色んな出自の、色んな年齢の兵隊をまとめて、一つの方向を向かせるのには、それが一番簡単確実なやり方だったのかも知れませんが、遺恨が生まれていたことは確かです。

 

 「海軍からの呼出し状」の章。

終戦直後の残務処理にあたっていた高橋氏が、酒場で串良航空隊の主計科の知った顔の元烹炊員に遭遇します。

 

 元烹炊員の子分二人が「やって仕舞おうか」という非常にマズイ雰囲気でチラチラこちらを見ている時、その元烹炊員は

「あいつは、・・・まぁ大人しい方だった」

と、こちらに聞こえる様に話して、私刑をまぬかれたというエピソードがありました。

 

 その元烹炊員は、入隊前は志布志町の顔役だったそうで、入隊前にいじめられていた町民から部隊の方に懲らしめてくれ、との投書があり、

 受けた軍隊いじめの仕返しに、戦後かつての上官を私刑して回っていたとの事で、軍隊いじめの遺恨は良くある事で、当然恨みは深く残ったようです。

 

 「主計長の発作」

軍隊の経理とは何?と思ったところ

「当時の予算項目には何でもかんでも、「臨時軍事費、臨時軍事費」と、ゴム判を押して置けばよかったし、軍隊で収益金など扱ったこともなかった。

いわば単式簿記の初歩的なもので、税金の遣い道を規則に従って、証憑書類(領収証など)の形に整えれば済んだのである。」

 

とあり、予算内で、出て行く金額を記入するだけ、という感じです。

まぁ、今の省庁、国の機関、役所役場みんなそんな感じなんだろうな、と思います。

 

 戦時は、裏に表にかなり巨大な金額が動いていた、と思います。

当然、戦争は消耗しか生まないので国力は衰退し、流通ルートも壊滅。

国内市場は円による売買もレートもほぼ崩壊し、闇市場が出来る。

国民は疲労し、餓死者が増加。致死の飢餓が蔓延。

 

 軍により保管されていた食料や物資は、あっさり敵国に徴収されたり、横流しされたりと、闇から闇に消えたものも多かったと思います。

 

 やっぱり、日本人は戦争に向いてないし、してはイカンなぁと思います。

勝ってる時も、100年先の国家戦略など考えてない。負けたら負けたで、責任逃れで国民そっちのけ。もしかして、2015年現在もか・・・。

恐ろしい話です。

 

 最前線で地獄の様な恐怖を味わい、切実に平和をかみしめる本もありますが、

この本は、古参兵が見た、銃後の国内の空気感や、終戦の酷いドタバタから、当時の日本人の姿を見て、軍隊、戦争への意味を知る事が出来ます。

 また、今日現在Amazonにて、中古価格が1200円になっていることを知り、非常に驚きました。当時の価格が320円です。

それだけ、人気があるという事なんでしょうか。

 

 高橋氏の、率直な語り口と、イラストも高橋氏(氏はマンガ家です)で、外地女性との思い出もあり、旧海軍を知る事のできる作品ですので、読んでみてはいかが?と思いました。

 それでは、次の更新まで!