「陸軍歩兵よもやま物語」です。
みなさん、こんにちわ。水の心です。
今は昔、学生の頃、フラリと入った文化センターで、左翼系団体主催の
「日本軍の中国侵略」についての展示があり、色々あった展示物の中に、
38式歩兵銃がありました。
(年代的にミロクの鉄製38式モデルガンだと思われます)
そこに、爺たちが3人集まり、勝手に展示物の38式を手に取り、
何やら大声で話始めました。
どうも「対空照尺」で航空機を狙う、といった話を、
これまた大きな声で話して、静かだった会場内の空気が変わりました。
私が、初めて目の前で見た元日本兵(らしき人物)でした。
結局、主催者のおばさんが、注意して収まりましたが、
多分、戦中派だった爺たちは、青春の血が騒いだのか、ここぞとばかりに昔話をし始めた風に見えました。
しかし、あんまりセンスが無かったんですよ。
下品はいけませんでしたよ、爺たち。
さて今日は、1997年発行、光人社NF文庫、斎藤邦雄著
「陸軍歩兵よもやま物語」です。
著者の「斎藤邦雄」氏は、群馬出身、東宝在職中に召集。
ソ連対日宣戦布告、シベリア抑留の後、28歳の時に復員。
復員後は、東宝を退社後、フリーになり、東京児童漫画会に所属。
昭和40年にフジテレビエンタプライズに入社、アニメ制作を担当とあります。
確認できる範囲では、
「そばかすプッチー」
「ピンチとパンチ」
「いたずら天使チッポちゃん」などが、
斎藤氏のフジエンタプライズ在籍中と重なる作品であり、これら作品の制作に携わってらっしゃる可能性があります。
というのも、この本は「文もイラスト」も斎藤氏の作によるもので、
1980年代に起きた「よもやま」軍記物ブームの中でも、
その表紙イラスト、中の挿絵共、プロの手による非常に良く出来た作品です。
また、新宿住友ビル48階の「平和祈念展示資料館」のサイトで、
斎藤氏の「シベリア抑留いろはかるた」が掲載されており、
こちらでも斎藤氏のイラストが見る事が出来ます。
本作「歩兵よもやま物語」は、一つのエピソードが3~5ページで書かれ、
81にも渡るエピソードが詰まっています。
ほがらかで落ち着きがあり、しっかりした観察眼を持つ斎藤氏の目から見た、
エピソードの中で、まず衝撃を受けるのが
「ああ、神様!」
北支に到着後すぐに、初年兵の度胸試しとして、着剣した38式歩兵銃の刺突による捕虜の処刑のエピソードです。
当然、 恐怖で志願する者などおらず「順番で」となったところ、G二等兵が、
志願。
失敗の後、班長が代わりに執行しますが、読むと大変生々しく、痛々しい。
そして、その雨の夜。
遺体を埋めた河原から、石を転がす音と人の泣き声がします。
翌日、河原に行ってみると、遺体は無くなっていて、夜の泣き声は、多分身内で、掘り起こして、連れて帰ったのだろう、と思ったそうです。
古兵たちは、昼間から酒を飲んでは、おこなってきた残虐な事を武勇伝として、
初年兵に話します。
私たちも戦地で年を重ねていくと「朱に交われば赤くなる」のか、
と斎藤氏は書かれてエピソードは終わります。
「二人の日本兵」
山西省で、部隊が全滅し、八路軍の捕虜となった、2人の一等兵が、
連絡員に連れられて、警備隊にやってきます。
どうも扱いがおかしく、2人は物置小屋に置かれて、監視されている様子。
伝わってきた話では、八路軍は2人を捕虜にした後、優遇。
帰れば処罰が待っているから「残りなさい」と勧めたそうで、
2人は、それを断って帰ってきた、との事でした。
軍のやり方を、ひどく疑問に思いながら斎藤氏は、戦陣訓
「生きて虜囚の辱めを受けず~」を、
「こんなお題目があったばかりに、どれほどの兵隊が苦しみ、また無駄死にしたことだろう。
もし、敵の捕虜になったら、どんなことがあっても、けっして日本軍ところには帰るまいと思った。」
と書かれています。
「戦果報告のウソ」
八路軍討伐時の戦果報告に関して、日本軍のやり方を書いているのですが、
戦果報告が、恒常的に過大報告になっていて、
敵兵器の獲得成果が無かった時の為に、わざわざ兵器を隠しておき、
それを使って虚偽報告をしていた事。
殺害報告の水増しも常で、一人農民が死んでも、五人死亡にしたり、
斎藤氏が司令部勤務の際、各部隊から上がって来る報告は莫大な殺害数で、
「だれも文句も言わず、正そうともしなかった。
ウソを堂々と文章にする日本軍の体質はまことに不思議であった。
何万人にも及ぶ住民虐殺の数字も、この軍の習慣が誤解の原因になっているのかも知れない。」
と書かれています。
最後、ヤルタ会談密約後のソ連の日ソ中立条約の破棄と、対日宣戦布告により、
日本人避難民を置き去りにしての、奉天での決戦準備でてんてこ舞い、
無条件降伏よる武装解除と、目まぐるしく、時が過ぎていきます。
続く、ソ連兵、中国人による略奪や暴行。
暴行される女性、老人、日本人を横目で見ながら、なにも出来ず、
日本への帰還をひたすら夢見ながら、全く説明もなく列車に乗せられ、
国境のソ連側に行く運搬船に乗る、重い麻袋をかついだ数百の兵隊の列。
「その姿は悲しき兵隊蟻であった。
忘れもしない、いな、生きているかぎり忘れてはならない、
昭和二十年九月三十日の事である。」
と書かれて終わっています。
この本では、軍隊って何?という事がわかります。
市井の人だった若い召集兵たちの、青春ストーリーでもあるし、
仲間たちとの友情ストーリーでもあるし、
罪なき兵たちの喜びや苦しみが書かれています。
そして、中国人の奥の深さ。
あらゆる方法で、日本軍をスパイし、分析し、機会を待ち、攻撃をしてきます。
日本軍(人)のやり方では、到底、勝つことは出来ない。
引き分けに出来るかどうかも怪しい。
まるで、ヴェトナム戦に突っ込んでいった米軍を見る様です。
あまりに良く出来たゲリラ作戦です。これでは絶対に勝てない。
そして毎回、日本軍の戦記を読むたびに思うのは、驚く程、
上層部が「勝つ」ための戦争をしていない、という事です。
下の兵隊は、現在の国民を見てもわかる様に、大人しく、非正規社員でも、
最低賃金でも、文句も言わずに、キッチリ仕事をして、日々を真面目に生活しています。
しかし、上に立つ人間がダメだ。
過去の経験を反省し、知識を生かして、未来につなげる。
小さな日本だからこそ、出来る事があるはずです。
恩讐は越えなければならないが、忘れてはならない事実もあります。
先達の苦労が実る、いい時代が来ることを期待します。
それでは、また次の更新まで!